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有元美津世のGet Global!

数字・データに強くなろう(1)2020.10.06


 パンデミックが発生して8カ月になるというのに、どの国のメディアも、未だに「〇〇で新たに〇〇人感染」といった報道を続けていますね。「それに何の意味があるの?」という声は、一般人からも高まっているというのに。

 第二波が押し寄せているヨーロッパでは、「春以降最多の感染者数」といった報道が、毎日のように行なわれています。やはり新規感染者数ばかりで、重症者数や死者数は、なかなか伝わってきません。(世界各国の感染者数や死者数を表やグラフにまとめたものは、英語ではいくらでもネットに載っていますが。)

 日々の感染者数は、傾向を見る上では有効でしょう。ただし、日々の変動ではなく、7日移動平均(7-day moving average) が使われるのは、そのためです。感染者数とは「検査で陽性反応が出たことが報告された」ことを表す数字であり、検査は週末休みなので週末や月曜の報告数は減るのですから、毎週、その翌日に「増えた」と大騒ぎする必要はありません。「7日移動平均って何?」という人は、コロナに限らず、統計の基本くらいは理解しておいた方がいいでしょう。

見るべきは人口比


 そもそも、「感染者数」といっても各国の人口が大きく違います。世界には、日本やアメリカの小都市くらいの人口しかない国も多数あります。ヨーロッパを含め各国が「感染者、死者数はアメリカが最多」と報道していますが、アメリカの人口は3億3000万人弱です。人口あたりの死者数では、ずっと西欧がアメリカよりも上位を占めていました。最近、南米が追い上げており、ペルー、ベルギー、ボリビア、ブラジル、スペイン、チリ、エクアドルの順で、現時点ではアメリカは10位、11位のイギリスと同等の数字です。* スペインやイギリスは「アメリカ最悪」などと言える立場ではないわけです。南米は、今後、夏に入り、ヨーロッパは冬になりますので、今後またヨーロッパの死者が増える可能性があります。

 「アメリカ、インド、ブラジルの3カ国で世界の感染者の半数」「インドの死者数が10万人を超え、アメリカとブラジルに迫る」といった報道もされていますが、まず3カ国とも人口で世界上位6位に入る大国です。今後、感染者数も死者数ともに、人口13億人のインドが世界最多になる可能性が大きいです。人口の1%が感染しただけで、東京の人口並みの1300万人になるのですから。なお、人口あたりの死者数ではインドは世界で78位(100万人あたり74人)で、西欧諸国より少ない東欧諸国より、さらに少ないのです。(なお、日本は143位。)

陽性率


 また、当然ながら、感染者数は、検査数によって左右されます。** 数カ月前、トランプ大統領が「検査数を減らせば、感染者は減る」と言って批判されましたが、これ自体は、あながち間違ってはないのです。

 「陽性者数」と「陽性率」の違いを理解していない人もいるようですが、見るべきは陽性率(新規陽性者÷検査数)でしょう。東京の陽性率は4%以下なのに、「新たに100人以上感染確認、6日連続100人超」といった報道ばかり。(こんな数字であれば、アジア以外の国ではマスクすらしない。)

 春には世界の震源地(epicenter)であったニューヨーク市は、ピーク時には陽性率が50%にのぼっていましたが、一時1%以下%まで下がったものの、先週やっと飲食店の屋内飲食も始まり(ただし定員25%まで)、ジムも再開が許され(定員33%)、また上昇傾向にあります。(でも、未だに「日本、東京はニューヨークを見習え」という日本人がいる。)

 一般人にも「注目すべきは死者数や重症者数・入院者数」と言う人が増えているのに、メディアが、いつまでも「感染(陽性)者数」に焦点をあてているのは、煽って購読者数・ビジター数を増やしたいからか、メディアの人間が数字に弱いからなのか...(多分、両方。)

数字に弱いメディア (Math-challenged Media)


 アメリカでは、優秀な学生は(儲からない)ジャーナリズムには進みません。大手メディアでも数字を扱う際に、「△%も!」といった数字が並んでいて、何度読んでも「いったい何の%なのか」がわからないことも多々あります。(調査方法や調査対象者、母数なども大事ですが、そんなことには触れないメディアも多々あり、数字の信憑性がわからないまま、いつも数字だけが独り歩きするのです。)

 私の周りには米新聞社勤務の人が結構いるので、彼らの算数力は身近で目にしています。アメリカは、(数学でなく)算数ができなくても、高校だけでなく文系の大学も卒業できるので、「-1-1」や「3/2(=1.5)」の計算ができない人もいます(実際に大学で遭遇した)。日本の大手メディアには、有名大学を卒業した人も入社するので、算数くらいはできるのかと思っていたら、やはり文系は数字に弱いそうで(もちろん統計学など勉強していない)、数字に関してアメリカと同じような報道も見られます。

 そうした人たちが、きちんと理解もせず報道する数字に踊らされないためには、情報の受け手一人一人が数字に強くなり、データを正しく読めるようになるしかありません。ビジネスの世界で生きていくなら、データ読解力は必須です。次回は、その辺について話を続けたいと思います。

 


*  サンマリノやアンドラなどの人口数万人の小国は除外。
**  アメリカでは抗体検査を公式検査数に含めている州もあり。

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この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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