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なぜIT企業の外国人は日本語がうまいのか?

 
あなたの「日本語マスター法」を教えてもらえますか?

テレビを見ていても町を歩いていても、日本語を上手に操る外国の人が増えている。あるとき、日本語がペラペラのアメリカ人に出会った。文法も発音もほぼ完璧。外国語のなまりはなく、むしろ東北弁のなまりが少しある。聞けば、東北地方の大学に留学経験があり、留学中のわずか1~2年で、日本語をほぼマスターしたという。今は、日本語を巧みにあやつりながら、IT企業の社員として働いている。

 「IT企業に勤める外国の人って、なんで日本語がうまいの?」「英語を何年も勉強しているのに、英語を話せない日本人(私)が多いのはなぜ?」「もしかしたら、外国人と日本人の脳の違いに秘密がある?」

 そんな謎を解き明かすべく、日本のIT企業に勤める4人の外国人に体当たり調査を敢行。彼らの日本語マスター法から、効果的な語学学習のヒントを探った。

Case1 ホストファミリーと一緒に猛勉強

  Ben Strauss
  ベン・ストラウスさんの場合
  日本オラクル

 

 

 

初めて見た相撲レスラーに衝撃

 創業30年の節目に、クラウド推進の「POCO(ThePower of Cloud by Oracle)」戦略を発表した日本オラクル。2020年開催の東京オリンピックの新国立競技場建設予定地が一望できるオフィスで、ベン・ストラウスさん(同社オペレーションズ統括本部長)と会った。2m近い長身でありながら、威圧感をまったく感じさせない物腰のやわらかさと、ゆっくりとした丁寧な話し方。イントネーションも間の取り方も、まるで日本語のネイティブのようだ。

 自身の日本語に対する評価について、「このくらいのレベルでは……」と謙遜するあたりが、いかにも日本人っぽい。

 ベンさんは米ミシガン州の出身。15歳のとき、父親の仕事の関係で家族が1年間日本に滞在することになった。が、当時、高校生だったベンさんは「絶対に住みたくない」と頑なに日本行きを拒否。ひとりアメリカに残り、春休みに、家族に会うためにやって来た。

 「1週間は東京、もう1週間は関西へ旅行しました。大阪で初めて相撲を見たんです。小錦が十両だったんだけど、すごかった。本当に印象的だった」と懐かしそうに当時を振り返る。

 この旅行がきっかけで、「日本っておもしろいな」と興味をひかれたという。

 大学に進学すると、日本語の授業をとって、交換留学のプログラムを目指した。そして大学3年のとき、早稲田大学に留学するチャンスを得た。が、当時はそんなに真剣に日本語を勉強しようとは考えていなかったという。それよりも大学生活を楽しみたい、という気持ちの方が大きかった。そんな中訪れた日本で、少なからず挫折を味わってしまう。

 「アメリカの大学で勉強していたけど、日本に来てみたら、言っていることが全然わからなかった。カルチャーショックも大きかったし、毎日辛かったですね」

英語シャットアウトの日々

 苦労はしたものの、日本に対する興味は以前より増した。1年間の留学を終えて帰国した後も、日本人の先生に個人レッスンを受けて、日本語の勉強を続けた。

 その先生の紹介で、立教大学に2度目の留学。1度目の留学費用は両親が払ってくれたが、2度目は奨学金プラス自費。同じ留学でも、費用を人に払ってもらうのと自分で払うのとでは、当然モチベーションが違ってくる。ベンさんの場合もしかり。「がんばらないと」と、すすんで日本語を勉強する意欲がわいたという。

 朝は日本語のクラス、午後は法学部の授業を受け、1日中勉強した。わからない漢字があれば、繰り返し、繰り返し、辞書を引き、通学の車内では、満員電車で立ちながら、必死で単語のフラッシュカードをめくった。

 「ホストファミリーと暮らしていたので、家でも日本語。法学の本を読もうとしても、調べるだけですごく時間がかかる。だから夜はホストファーザーに隣に座ってもらって、つきっきりで教えてもらいました。ホストファーザーは、私にとって、もう一人の素晴らしい先生です」

 やる気と努力、そして環境に入り込むこと。それらが相まって、ベンさんの日本語力は格段にアップした。だが、日本人が話しているような独特の間合いや発音は、どうやって身につけたのだろうか。

 「ホストファミリーの家に友達を呼んで一緒にごはんを食べていたとき、その友達が、『あれ? ベンの日本語はホストファーザーにそっくりだね』って。毎日暮らしていると、やっぱり似てきますよ」

 どうやら話し方というのは、無意識のうちにうつってしまうらしい。ベンさんの丁寧な日本語は、ホストファーザー譲りというわけだ。

 日本人と普通に会話ができるようになったと実感したのは、そんな生活を続けて1年たったころ。「せっかくここまできたので、日本でやってみよう」と決意し、大学卒業後は日本の企業に就職した。

漢字の書き順で長男とケンカ

 米国勤務となったベンさんはその後転職し、2006年に再び日本へ。現在は家族5人で東京で暮らす。

 家庭での会話は英語がベースだが、日本の小学校に通っている3人の子どもたちの日本語レベルはネイティブ並み。特に「漢字」に関しては、小学5年生の長男に「抜かれた」と感じることも。

 「漢字は本当に難しい。息子と『書き順が違う!』ってケンカしたり、教科書を見て、一緒にテストすることもあります。自分にもいい勉強になっていますよ」

 書き順は「正しく書くべき」と主張するベンさんと、「どっちでもいいじゃん」と言う息子。それって……完全に日本人の親子の会話だ。目下のところ、ベンさんが心配しているのは英語の方。

 「特に下の8歳と6歳の子たちは、『日本語の方がラク』と言って、家で遊ぶときも日本語になってしまう。だから、毎年夏休みには1カ月くらいアメリカに帰って、英語能力アップのために、現地のサマースクール(合宿)に行かせるんです」

 まさかの逆留学。両親ともに英語ネイティブであっても、自然と英語ができるようになるわけではないらしい。むしろ、生活環境で使用する言語の割合がポイントなのかもしれない。バイリンガルに育てるのは、なかなか難しそうだ。ベンさんに語学をマスターする秘訣を尋ねてみると――。

 「私の場合は、日本が好きで、日本で暮らすために必要だったから。語学のための語学はおもしろくない」

 今後、イタリアやドイツに行こうなどとは考えていないのだろうか。

 「たぶん、その民族とは合わない。私は日本に合うから、ここにいたい」

 自分にとって相性のいい国民性、居心地のいい場所。それが、ベンさんにとっては日本だったのだろう。その国が好きで、その場所で生活したいという熱意が、語学習得のための第一歩なのかもしれない。

(取材・文/佐藤未来)


次回につづく

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