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タカシの外資系物語

仕事における得意技 - スペシウム光線とは ?2007.06.26

ウルトラマンのスペシウム光線

みなさんは、”得意技”と聞いて何を思い浮かべますか ? 私の場合は、ヒーローもの世代ということもあり、ウルトラマンの「スペシウム光線」や仮面ライダーの「ライダーキック」などが思い浮かびます。若い世代ならさしずめ、ドラゴンボールの「かめはめ波」でしょうか。ウルトラマンの場合、地球上では 3 分間しか戦えないため、 2 分 30 秒あたりからカラータイマーがピコンピコンと鳴り出します。そして、残り 10 秒、もうダメか ? といった瞬間に繰り出されるのが、得意技であるスペシウム光線。この光線は本当に必殺でして、殆どの怪獣がこれで退治されています。 


では、なぜウルトラマンは、登場してすぐにスペシウム光線を出さないのか ? 登場後すぐに、必殺のスペシウム光線を出し、怪獣を倒してさっさと帰る … シュワッ ! ピーー、ドッカーーン ! シュワッ ! ものの 5 秒で終わります。 


私はこう見えても、かなりヒネた子供でしたので、リアルタイムで TV を見ていた当時も、このようなことを思っていました。しかし一方では、「最後に出すから意味がある」ことも、何となく理解していたように思います。ある程度痛めつけてからでないと、いくらスペシウム光線といっても、通じないケースがあるのではないか、という仮説です。 


スペシウム光線については、実はもう 1 つ疑問があります。それは、「ウルトラマンはスペシウム光線を出すために “練習” した ( している ) のか ? 」ということです。私の仮説は、「かなりの練習と経験が必要」ではないかと考えています。その理由の 1 つは、スペシウム光線というのは、無意識のうちに発射されるものではなく、あくまでも意識的に発射されるものだということです。意識的に発射しているとすると、常に強力な光線を怪獣に向かって発射するためには、不断の努力と高い精神力が必要だと思うのです。二日酔いでフラフラのときなどは、スペシウム光線を出しても、足元あたりにチョロッと垂れて終わり、なんて感じになりそうじゃないですか。

必殺の Killer Chart?

さて、長々とくだらない話をして、すみません。本題に入ります。私が冒頭で言いたかったのは、「得意技というのは、相応の練習と経験によって自分のものとなる ! 」ということです。実は、この当たり前のことを理解できていない人が、結構いるのです。 


先日のこと、私のチームの若手 A くん ( 外資コンサル経験 2 年目 ) が、私のところに相談に来ました。 


A くん 「タカシさん、相談があるのですが … 」 


私 「どうしたの ? 」 


A くん 「実は、ある金融機関に対してコスト削減プロジェクトの提案をしようと思っているのですが、どうも提案書のスライドがうまく書けなくて … (T-T)」 


タカシ 「どれどれ … 」 


A くんが作った提案書のスライドを見てみると、大きくはずしているわけではないのですが、これといって印象に残らない、つまり、可もなく不可もない、という感じです。 


タカシ 「なんかこう、インパクトに欠けるよね。面白みがないというか … いわゆる、 Killer Chartがないんだよ … 」 


Killer Chart というのは、外資でよく使われる言葉で、パワーポイント資料などにおけるキーとなる中心スライドのことを指します。提案書でいえば、まさに「殺し文句」にあたるスライドのことです。 


A くん 「そうですよね、どうしようかな … (T-T)」 


私 「オレのチャート使ってみる ? この手の提案は、これまでに何度もやってきたから、オレ自身の Killer Chart ならあるけど。それを A くん流にアレンジして … 」 


A くん 「ありがとうございます ! 早速、作り直します ! 」 


私 「くれぐれも、 A くん流にアレンジするんだよ ! 」 


2 日後、完成した A くんのスライドを使った提案プレゼンの練習に付き合うことになりました。 


A くん 「 … ということで、潜在的に 20% 程度のコスト削減余地があると思われ、取り組み次第で 1 年後に 10% の削減を実現することが可能です ――― という感じでプレゼンしようと思っているんですが … 」 


私 「なんか、さえないね … 」 


A くん 「そうですね。自分でも、話していて、そう思います … (T-T)」 


私 「なぜだろね ? オレの Killer Chart もうまく使ってくれていると思うんだけどね」 


A くん 「タカシさんが以前のプレゼンでお話されたのと、同じセリフ回しや調子で話しているつもりなんですが … 」 


私 「オレと同じセリフだって ? 」 

仕事におけるスペシウム光線の鍛え方

私 「例えばさ、”取り組み次第で 1 年後に 10% の削減を実現することが可能”と言ってるのは、裏にどんな意味があると思う ? 仮に、このプロジェクトに取り組んだ場合、どんなリスクがあるか、わかる ? 」 


A くん 「いや、そこまでは … タカシさんが言ってる通り話しているだけですから … (T-T)」 


私 「ま、そりゃそうだわな … A くんさぁ、君はまだ、 Killer Chart を自分独自の必殺の得意技として使えていないんだよ」 


A くん 「必殺の得意技 ? 」 


タカシ 「そう。得意技っていうのは、単にだれかのをマネるだけじゃダメで、それなりの練習と経験によって自分のものとなるんだ。 A くんの経験が足りないのは仕方ないからさ、そのスライドの背後にある僕の経験を、可能な限り話してあげるから、自分のものにするんだよ。そして、死ぬ気で練習してみな」 


A くん 「あ、ありがとうございます ! 」 


一般的に、外資系企業には、過去の提案書などを Knowledge DB ( ナレッジ・データベース ) に格納し、だれでも参照できるような仕組みを作っています。そこには、過去に絶賛された提案書があるわけですが、実際にチャートだけ見てみると、「これのどこがスゴイねん ? 」というのが結構あります。しかし、そのチャートに、それを作った人の経験と、プレゼンの練習で身に付けた工夫が加わってこそ、必殺の ”得意技” として機能するのではないでしょうか。 


スペシウム光線やライダーキックも、おそらくは血のにじむような経験と練習の積み重ねで成り立っているはずです ( われわれ人間は、いくら練習しても、スペシウム光線は出ないかもしれないが … ライダーキックぐらいなら、何とかなりそうか … )。仕事における ”得意技” も同じことでして、一朝一夕に身に付くものでは決してないのです。 


実は、アメリカ式の経営 ( ≒ MBA 的な仕事術 ) というのは、”得意技”の型だけを取り繕っているだけの側面があります。見た目はカッコいいのですが、本質的な魂が入っていない。聞いていて心が打たれないし、みな同じように見えます。しかし、私はこれを否定するわけではありません。なぜなら、何もない白紙状態に魂を込めるのは非常に難しいですが、ある程度の型があるところに魂を込めるのは比較的楽だからです。型だけのペラペラ状態では困りますが、相応の練習と経験によって自分のものとすればいいのです。アメリカ式経営手法を使って、自分なりの得意技を作ればいいのです。 


さてさて、 A くんへのスキル・トランスファーは、もう少しかかりそうです。 シュワッ ! ピーー A くんなりのスペシウム光線を出してくれることを期待して、私も残業に付き合いましょうかね !

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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