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タカシの外資系物語

“シャドウイング” のすすめ (その 1 )2010.11.30

“シャドウイング” への招待

先日のこと、人事部のトレーニングチームから、以下のようなタイトルのメールが届きました。


--- Invitation to “ 1 day Shadowing ” --- (“1 day シャドウイング”へのご招待)


「“1 dayシャドウイング” ? なんじゃ、そりゃ?」
“Shadow” というのは、“影” のこと。英会話の勉強をやっている方ならおわかりだと思うのですが、英会話の勉強法の 1 つとして、“Shadowing(シャドウイング)” というのがあります。これは、「ネイティブの人が話した英語を聞きながら、それと同じ文章をそっくりそのまま音読する」ことを指します。


「聞いた英語をそのまま話しゃいいんだろ ? 」 ま、そりゃそうなんですけど、実際やってみると、これが相当難しい。まず、話している内容を聞き取れなければ話になりませんので、高度なヒアリング力を要求されます。また、聞き取って話すだけなら、思いっきり気合を入れて、何度も何度も聞き返せば何とかなるかもしれませんが、当然のことながら、話し手は待ってくれません。

 

例えば、 「This is a pen on the table.」を聞き取って、「This is a pen on the table.」と話すのは、ある程度訓練すれば、そんなに難しくはないでしょう。しかし、実際の会話は悠長に待っていてはくれないのです。「This is a pen on the table. That is a book in the box・・・」というように、延々と切れ目なく続く・・・。つまり、適当な長さの文書毎に切れ目があるわけではなく、どこで切れるかわからない会話に、ずーーっとついていかなければならないわけです。

 

「This is (This is) a pen (a pen) on the table(on the table). That is (That is) a book(a book)・・・」といった感じで、ネイティブの猛烈な会話スピードの中、0.5 秒遅れ程度で話すことが求められるという、世にも過酷なレッスンなのです。
しかし、厳しいレッスンである一方で、その効果は非常に大きいのも確か。 私はこれまでに、複数の英会話教室に通った経験(お試しレッスン含む)がありますが、シャドウイングを使った訓練が、最も効果があったように思います。シャドウイングのおかげで、ネイティブの言い回しも相当数覚えましたし、結果的に、短期間で TOEIC の点数も上がりましたので、かなり効果的な学習法であることは間違いありません。


「有益であることはわかるんだけど・・・ “ 1 day”って・・・、こんなの 1 日中やってたら、フラフラになっちゃうよなぁ・・・」
パートナーに昇進したものの、私の英語力が人並み以下であることは、人事部にバレています。ま、これまでサボっていた「ツケ」がきたと思って、真摯に取り組むしかありません。


人事部からのメールにざっと目を通すと、「You are shadowing of “Mr. Andy”.」とありました。


「げげっ ! Andyの会話をシャドウイングするの ?  勘弁してくれよ、トホホ・・・(T-T)」


Andyというのは、日本支社の No.2 で、私が所属する部門のヘッドをしています。実施日は来週の月曜日。ハァ・・・ こりゃ、暗い週末になりそうだ・・・ 


実は、この時点で私は大きな“勘違い”をしていたのですが、このときはまだ何も知る由もない。後になって、人事部からの案内メールを熟読しなかったことを激しく後悔することになるのです・・・

気が引けるタカシ

予想(?)通り、気分の晴れない暗い週末を過ごした私は、月曜日の朝6時45分に人事部オフィスに向かいました。
「 6 時 45 分って、早っ ! 」 外資のエグゼクティブ、特に外国人の朝は早いのです ! 人事部によると、シャドウイングは Andy が出社する7時からスタートするとのことでしたので、それより 15 分前に来なければなりませんでした。


「おはよーございまーす。 Andy にシャドウイングをお願いすることになった奈良タカシですが・・・」
「あ、タカシさん、お待ちしていました。もうすぐ Andy が出社しますので、 Andy のオフィスで待つことにしましょう ! 」


人事部トレーニング担当のエミさんと一緒に、 Andy のオフィスで待つこと 10 分・・・
エミさん 「タカシさんはこれまでに、シャドウイングの経験はおありですか ? 」
私 「いやぁ・・・ 以前、英会話学校でやったことがあるんですが、会社ではないですねぇ・・・」
エミさん 「英会話学校で ? それは変わった学校ですね・・・」
私 「(ん ? そうかなぁ・・・) ・・・ ところで、シャドウイングなんてのを、 Andy のような上級エグゼクティブにお願いしちゃってもいいんですかねぇ ? 私なんかのために手間のかかることをお願いして、ちょっと、気が引けるんですが・・・」
エミさん 「何をおっしゃるんです ! エグゼクティブじゃないと、意味がありません ! 本社のトレーニング方針でも、シャドウイングはマネジメント層の上位が実施することになっています。それだけ、タカシさんに期待しているということですよ ! 」
私 「ふーん、そんなもんですかぁ・・・」


そうこうしているうちに、 Andy が出社してきました。
エミさん 「タカシさん、 Andy には事前に話してありますんで、即、シャドウイングを開始してください!」
タカシ 「えっ ?  は、はい ! (い、いきなりかよ ! )」

いざ、“シャドウイング” 開始 !

Andy 「Good morning ! 」

私 「Good morning ! 」
Andy 「It’s so fine, today ! 」
私 「It’s so fine, today ! 」
Andy 「Excuse me, but,・・・ your name is ・・・ ? 」
私 「Excuse me, but,・・・ your name is ・・・ ? 」


「ちょ、ちょっと ! 」 エミさんが血相を変えて、私をドアの外に連れ出しました。


エミさん 「何やってんですかっ ?! 」 エミさんを見ると、今にも殴りかからんばかり、鬼のような形相です。
私 「何って・・・、シャドウイングでしょ ? いやぁ、あの程度の会話なら、何とかなりそうです・・・」
エミさん 「アホかーーーーーーーーーーーーっ ! 英会話のシャドウイングやって、どないすんじゃーーーーーーーーーーーーっ ! (怒怒怒怒怒怒――― っ ! )」
私 「えっ ? ち、ちがうの ? (汗っ ! )」


エミさんによると、わが社の“ 1 day Shadowing ”というのは、「朝から晩まで一日中、上級経営層の Shadow (影)になり、会社や組織の動きを間近に見ることができる」というプログラムとのこと。つまり、上級役員にくっついて、仕事ぶりを見ることによって、役員の「模擬経験」をするわけです。基本的には、何もしゃべらなくてもいい。横で Andy の仕事を見ていればいいのです。英会話のシャドウイングをやれってくわけじゃなかったんですね。そうとは知らず、 Andy の話す内容をオウム返しで返していた私・・・


私 「・・・なーーんだぁ、それならそうと、早く言ってくれればいいのにぃ・・・ どうりで、なんかエミさんとの会話がかみ合わないと思いましたよ、ハハハ・・・」
エミさん 「メールに書いとったわーーーーーーーーーーーっ! ドアホーーーーーーーーーーーっ!(怒怒怒怒怒怒――― っ!)」


ハハハ・・・ いやぁ、早めに気付いて、良かった、良かった・・・ では、気を取り直して、 Andy の“Shadow”に戻らないとね、っと。


私 「Good morning, Andy ! My name is Takashi Nara. First, Thank you for invitation of “ 1 day Shadowing ”. I’m so exciting to be as your shadow ! 」
Andy 「OK, Takashi ! Let’s start ! 」


すったもんだで始まった“ 1 day Shadowing ”。はてさて、今日 1 日、どのような結末になりましょうか・・・?

(次回続く)

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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