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有元美津世のGet Global!

モルディブ(3)-- インドと中国の狭間で2024.05.07

 

私は2023年12月にスリランカに1ヵ月間滞在した後、翌年1月にモルディブへ行ったのですが、成田発のスリランカ航空便には、モルディブに向かう多くの日本人が搭乗していました。モルディブには、日本から直通便がなく、スリランカ航空であればコロンボで乗り継ぐことになります。

羽田発北京乗り継ぎの中国東方(China Eastern)や成田発クアラルンプール乗り継ぎのバティック(Batik)便に比べれば高いですが、シンガポール乗り継ぎのシンガポール航空便に比べれば安いです。

 

スリランカ航空

 

私が乗った便は、コロンボからの便の到着が遅れたため、成田出発が2時間以上遅れました。それで、モルディブへの乗り継ぎ便に乗れるのかと心配する日本人乗客に対し、「乗り継ぎの日本人のお客様が80名いらっしゃるので、モルディブ便はコロンボで待機します」とスタッフが説明していました。(「円安で海外に行けない」とメディアがまくしたてる中、モルディブのバカ高いリゾートに向かう日本人がこんなにいるのか?!とびっくり。なお、コロナ禍前は、観光客数で日本は9番目。)

ところで、スリランカ航空ですが、昨年から欠航や遅延が相次いでおり、利用する人は要注意です。私は、モルディブからはシンガポール空港でシンガポール経由でマレーシアに入ったのですが、(コロナ禍の教訓で)念のために、モルディブ発コロンボ経由のマレーシア行きスリランカ航空便も予約していました。そのモルディブ(Male)~コロンボ便は、搭乗9日前に欠航となりましたが、今年1月には、その便は欠航が相次いでいました。コロンボ~成田便は、今も連日、数時間の遅延が出ているようです。

なお、債務編成においてお荷物である国営企業のスリランカ航空は民営化されることになっており、今、売却先を探しているところです。同社の5億ドル以上にのぼる債務の多くをスリランカ政府が負担することになっています。

 

インドとの関係 -- 亀裂

 

今年頭にインドモディ首相が、インド南部の36の島から成るラクシャドウィープ(Lakshadweep)を訪れ、「世界的なリゾート地として開発する」と(地元民に対し票集めのために)SNSに写真付きで投稿したところ、隣国モルディブで、とくに政治家の間で反感を買いました。

モルディブの副大臣が、モディ首相の投稿に下記のようなコメントを残したり、(牛の糞がどうのこうのという)インドを蔑んだ低俗な子供じみた投稿をしたり、

”What a clown. The puppet of Israel Mr. Narendara diver with life jacket.”
(なんと間抜けな。イスラエルの手下、ナレンダラ[・モディ]氏がライフジャケットを着てダイビング)* 

ある議員は、SNS「<前略>我々と競合できると思うなんて、夢みたいなことを。<中略>」

“How can they be so clean? The permanent smell in the rooms will be the biggest downfall.”
(どうやって清潔にできるというのか。室内のぬぐい切れない臭いが最大の難点。)[インド人は臭いと言いたい。]

とつぶやいたり、別の大臣も「インドがビーチ観光で我々と競うのは大変なこと…。{外で大きい方をするような}文化なのだから」と投稿しました。

これに対し、ボリウッドスターやクリケット選手を含む多くのインド人が反発し、「モルディブをボイコット!」が叫ばれました。実際に、モルディブ旅行の予約を中止する旅行代理店が相次ぎ、2日間でモルディブ観光の予約が4割減少したというオンライン旅行サイトもありました。

私がモルディブにいる間も、連日、モルディブのオンラインコミュニティでも炎上し、モルディブ人ユーザらがインド人をなだめようとしていました。モルディブを訪問する観光客では、インド人が一番多いのですから(コロナ禍前は中国人)、観光業に頼るモルディブにとっては由々しき事態です。観光業はGDPの3分の1、雇用の7割を担っているのです。

モルディブ政府は、すぐに、問題の副大臣ら3人を停職処分にしましたが、インド人の怒りは収まらず、炎上は1ヵ月以上続きました。(とくにヒンズー至上主義的国際主義者の間では大荒れに。)

 

中国との関係 -- 親中派大統領

 

インドのモルディブに対する反感には、昨年、モルディブで、親印派の大統領を破り、親中派の大統領が選ばれたことが背景にあります。同大統領は、インドへの依存を軽減することを公約に掲げ、モルディブに駐留するインド軍関係者(88人)の撤退を正式に要請し、5月10日までに完了することになっています。昨年の選挙時には、“India Out”(インド、出ていけ)がスローガンとなりました。

モルディブの大統領は、当選後、まず最初にインドを訪問するのが通例だったのですが、新大統領は、昨年、インドの前にトルコ、そして今年1月には中国を訪問したのです。中国とは、両国の関係を「全面的戦略協力的パートナーシップ」に格上げすることで合意し、インフラ整備のために20の合意書を締結しました。さらに、3月には、中国と無償軍事協定を結んでいます。

同大統領は、閣僚時代に中国からの融資でインフラ整備を進めましたが、今回もインフラ整備推進を公約に掲げています。モルディブは、中国から公的債務の2割にあたる14億ドル近くを借り入れているのですが、親印政権時代に借り入れたインドからの債務4億ドルの免除をインド政府に頼んでいるようです。

先月の総選挙では、同大統領を支持する与党が圧勝し、議会ねじれ状態が解消したため、親中政策は、今後さらに加速すると思われています。

一見、日本とは関係のなさそうなモルディブですが、やはりシーレーン面で関係あるんですよね。

なお、モルディブのホスピタリティ業界での就職に興味のある方は、以前の記事を参考にしてください。



* 実際には、モディ首相はダイビングではなくシュノーケリングをしていた。また、正しい英語では、”A puppet of Israel”であるべき。”Puppet of Israel”は世界に大勢いるので。なお、副大臣の二人は女性で、一人は元ジャーナリスト。

 

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この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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